第5回講演会 ご報告

「市民講演会および柿渋展示会」のご報告

2018年7月8日に実施しました市民講演会及び柿渋展示会のご報告をさせていただきます。

柿渋・カキタンニン研究会は、昨年度に続き日本三大柿渋産地であった南山城地域における柿渋の歴史や文化の理解を進めるとともに柿渋関連産業の復興を通じて大都市と地方の双方的交流を活発化することから共に振興することを目的とした活動を継続して実施しております。合わせて、この活動をより持続的なものにするため次世代の人材育成につながる活動も行っております。

 今年度は特に柿渋の原料カキの産地及び柿渋の生産地である南山城地域と消費地である産業や職人の街である京都と大阪の大都市間の双方的な情報・技術交流を活性化するための「市民講演会及び柿渋展示会」を開催しました。

 

 2020年10月に奈良市で開催されます「国際柿シンポジウム」の運営委員長を務められます米森敬三教授(龍谷大学農学部)にご尽力をいただき、『柿渋文化の伝承と未来への語り部に! 〜歴史・文化と科学の融合そして革新へ〜という課題を掲げて「市民講演会及び柿渋展示会」を平成30年7月8日に京都駅前のアバンティビル9階の龍谷大学響都ホール校友会館で開催いたしました。今回は特に柿渋に関心がある様々な分野の方々などが一堂に会して、柿渋の歴史や文化のみならず、その天然素材としての魅力や利用の難しさ、製品への加工技術、作品のデザイン、様々なアイデイアなどを幅広く自由に語り合う、意見交換し合い相互交流する場を提供することを目的として実施いたしました。

 当日は西日本に記録的な大雨が前日まで降り、開催が危ぶまれるような状況となりましたが、8日(土曜日)は京都府南部では雨が降らないという天気予報でしたので、思い切って開催に踏み切りました。少し、講演会の参加や展示会の出展におきましてキャンセルの連絡がきましたが、何とか無事に実施することができました。

  市民講演会の総合司会は、京都府立大学の中村考志教授にお願いしました。先ず、午後1時から共催いただきました龍谷大学農学部の米森敬三教授の開会の辞に始まり、次に京都府から山下晃正副知事のご参加・ご挨拶をいただきました。柿渋への興味と研究会の活動に関して暖かい励ましのお言葉をいただきました。京都府からは商工労働観光部理事の後守祐二様と合わせて3名様に参加いただきました。そして、本講演会に後援をいただきました木津川市と精華町からも高味孝之市議会議長、木村要町長、杉浦正省町議会議長、森田喜久議員の方々にご参加いただきました。また、日頃、原料柿の苗木増産に協力していただいている、京都やましろ農業協同組合からは、十川洋美代表理事組合長と平林悦朗常務理事にもご参加いただきました。結局、合わせて講演会の参加者の総数は126名、展示会の出展数は18件となりました。悪条件が重なりましたが、結果としましては盛会になったのではと喜んでおります。
 

次に、本研究会の会長松尾 友明が研究会の活動内容や開催趣旨を簡単に説明いたしました。
 

 そして、市民講演会の先陣を切って、『古来、日本人の生活を支えてきた柿渋の力』という演題で大阪府立大学大学院客員研究員の今井敬潤氏に講演をお願いしました。今まで、民俗学的な立場から長年にわたって調査・研究を行い、優れた著書を発表しておられる今井先生は、調査や文献史料に基づいて柿渋が古くから,木製品・和紙への塗布や麻・木綿などの染色に利用され,漆に匹敵する塗料として重要な役割を果たしてきたことを説明され、漁網,養蚕用具,醸造用搾り袋,染色用型紙、製茶用具などの生産用具や,渋紙,紙衣,和傘,渋団扇,漆器などの生活用具などの具体例を示されました。特に、山城の板塀に使われていた墨渋塗りや酒袋に使われた『柿渋』の量は膨大な量で、数多くの渋屋さんが営業していた時代があったことは興味深い点でした。さらに宇治茶と関わって、特に製茶における関連用具での柿渋の利用について詳しく説明されました。最後に「村起こし」としての柿渋造りの試みについてもお話をされました。その講演のなかで一貫して伝統的な日本人の生活を支えてきた『柿渋』の重要性とそれを愛し続きてきた日本人の文化と精神性を強調され、終始熱く語られていました。
 

第2話として、『伊勢型紙から見た柿渋の魅力』という演題で三重県鈴鹿市から来ていただきました伊勢型紙技術保存会の会長である内田 勲氏にお願いしました。内田会長の伊勢型紙技術保存会は、彫刻専門の職人で構成された団体で、その中にあって内田氏は「突彫り」という技法を得意とされているそうです。最初に、伊勢型紙の誕生や歴史について解説をされました。伊勢型紙は紀州藩の保護を受けて発展しましたが、このころ武士の裃に型染がもちいられ、その小紋はどんどん細かく精密な作りになっていき、大名同士で競い合うようになったそうです。その結果、型紙の製造技術は飛躍的に進歩したと言われています。つまり、型を彫る職人と染める職人の協同で、見事な発展を遂げました。
その中でも型地紙(彫刻する前の型紙)の原料は、和紙と柿渋であり、複数枚の和紙を張り付け型地紙を作成するために柿渋はなくてはならないものでした。
染型紙の作成には、高度な彫刻技術と共に、強くて伸縮しない性質の紙が不可欠でした。この特殊な紙を型地紙とよび、美濃和紙を柿渋でベニヤ状に張り合わせ、燻煙と乾燥による伝統的な製法で作られてきました。歪みができることなく布を染めることができるのはこの特殊な柿渋を使った型紙が必須でした。具体的に和紙だけでも破れる、和紙に柿渋を塗って乾燥したものも手で力をいれると破れるが、それを水に濡らすと非常に強度が増してなかなか手では破れないという、手振り身振り実物を交えてお話いただいた内容は大変興味深いものでした。歴史と職人さんの長い経験と技術が産み出した魔法の技でしょうか。
最後に、和紙と柿渋の不思議な結びつきが伊勢型紙を生み出した原点であることを力説していただきました。
 

  続きまして、第3話としては、東京家政大学客員教授の小林 泰子氏に『染色工芸から見た柿渋の魅力と問題点』について話題提供いただきました。柿渋が天然素材のため,環境や人体にも優しく,赤ちゃんから高齢者に至る幅広い世代の衣料品,寝具,室内装飾品,介護用品などへの展開が可能であると考えられて、そこで柿渋染色した綿布につき,数種の機能性について科学的に解析されました。柿渋の強度・防腐性の付与や消臭性・抗菌性に注目されて実験された結果を丁寧に詳しく説明されました。
  最初にJIS法に従い,代表的な4種の染色堅ろう度試験を実施されたことを多くの実験結果の図表を交えて説明されました。媒染染色布の変退色堅ろう度は5級で,洗濯による濃色化は媒染で抑制できると考えられました。汚染堅ろう度は5級で,汚染は認められなかった。汗堅ろう度試験でも,試験後に濃色化が認められましたが、これは柿タンニンが汗試験液のアルカリや酸と反応したためであろうと説明されました。
  摩擦堅ろう度試験では,乾燥試験で汚染堅ろう度が3級以上となり実用範囲内であったが,湿潤試験では媒染や染色を繰り返した濃色布ほど汚染堅ろう度が低くなったそうです。耐光堅ろう度試験では,変退色堅ろう度は4級以上となり実用可能と考えられました。洗濯試験を含め,柿タンニンとアルカリや酸との反応を抑制する方法について今後検討が必要であることを指摘されました。
アンモニアと酢酸に対する消臭性は高く,特にカチオン化処理と銅媒染を加えた染色布の消臭性が高かったのは興味深い結果でした。 柿渋染色布のみの紫外線遮蔽率は,ブロード綿布で88%以上,メリヤス綿布で98%以上となり,重ね染めに媒染を加えるとさらに高い紫外線遮蔽率が得られたことを報告されました。
また、機能性の試験結果としてグラム陰性菌のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とグラム陽性菌の大腸菌の2種を使って、柿渋染色のみ行った染色布の抗菌活性値はMRSAでは5.8,大腸菌では6.3であり,柿渋染色布は,これらの菌に対し抗菌性を持つことを明らかにされました.最後に今後の検討課題として,価格,色のバリエーションなどを挙げられました。価格については,柿渋染色に少量の合成染料の重ね染め.色のバリエーションについては,柿渋の良さを損なわない他の色合いの草木染染料の添加が解決策の一つと提案されました。このように柿渋を用いた染色試験を科学的に詳しく取り組まれているのは珍しく貴重なお仕事だと感じました。
 

  第4話としては、近畿大学農学部食品栄養学科の米谷俊教授に「フードサイエンスから見た柿渋の魅力」というテーマで講演していただきました。米谷先生は民間企業でも研究職につかれていた経験を長く持っておられ、単に基礎研究だけでなく常に実用的な価値を目指した研究をされているという印象を持っております。
 日本では、近年の食生活の乱れや少ない運動習慣などにより、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病患者が依然として増加傾向にあります。重篤な疾病の併発を考慮すると、糖尿病の予防は、健康寿命の延伸を目指す超高齢社会の重要な課題となっています。糖尿病までには至らない予備軍の人々や糖尿病が気になる人々に対しては、食品に由来する機能性成分に期待が高まり、近年、血糖上昇抑制作用を示す食品成分に注目が集まっています。そこで、米谷先生は柿に豊富に含まれているポリフェノール(奈良式柿渋)の生理活性に注目され近年研究されています。
前半部分では、奈良式柿渋の製造方法や化学的特性について実験結果を交えて説明されました。そして、糖尿病の一次予防や糖尿病患者では血糖値のコントロール(食後の急激な血糖値の上昇と高血糖の持続の抑制)が重要ですので、そこで、柿ポリフェノールの糖負荷後の血糖値上昇抑制作用についてマウスとヒトを使って試験されました結果の図表を使って詳しく解説されました。その結果、対照群の血糖値の上昇に比べ、柿ポリフェノール250 mg/kg(低濃度群)、500 mg/kg(高濃度群)を同時に投与した群の血糖値の上昇は、有意に低く抑えられ、インスリン分泌も節約されていました。ヒトでも同様に食後血糖値の上昇について検討されました。 20歳代の健常ボランティアにマルトース負荷(150 kcal)したところ、柿ポリフェノール3 g投与群で、摂取後60、75分の血糖値にプラセボに対し有意に低値を示しました。さらに、20歳代~60歳代までの男女、35名に同様の糖負荷試験を実施したところ、柿ポリフェノール2gの投与で、糖負荷後の血糖値の上昇を有意に抑制できることを明らかにされています。
実用的な見地から柿ポリフェノールを食品に添加して、利用可能かを検討されました。生地に柿ポリフェノールを添加したクッキーを試作し、21名の健常成人で官能評価を行ったところ、味や香りが強いチョコレートクッキーでは、3%のポリフェノールの添加でもその味質には影響を与えず、食品素材として利用が可能であると結論づけられました。さらに、ハンバーグの生地に添加して、その食感についての効果を調べられました。 以上の結果から、柿ポリフェノールは、血糖コントロールができる食品素材として、糖尿病の一次予防に利用できると考えられ、実用化に向けて検討を進められているそうです。大変楽しみな研究で、このような柿渋の新たなる用途が次々と開発されるといいと思いました。
 

   最後は、柿渋・カキタンニン研究会の会長を務めております松尾 友明が「特許や文献から見た柿渋の多様な利用とその可能性」というタイトルで話題提供させていただきました。最初には、『井の中のかわず大海を知らず、されど空の青さ(深さ)を知る』、この意味を「柿渋」の世界に当てはめてみますと様々な考えや思惑にぶつかります。自分の世界に閉じこもって独自の技術開発に没入するのも1つのやり方ですが、小さな柿渋関企業がそれぞれ光り輝きながら、大海のイワシの群れのように大群をなして世界に向けて飛び立ってほしいと思っております。世界に大きなうねり、ブームを作っていってほしいと願っております。
  次に、柿渋・カキタンニン研究会は、なぜ柿渋とカキタンニンを冠に掲げているのか? という疑問にたって、カキタンニンと柿渋の違いと利用について説明いたしました。そして、中世の日本では、紙、木材、布(糸)から成る住居を主体とした社会でした。海に囲まれて、雨の多い日本では、古くは紙や木材・布(糸)などの天然素材を水に強くすることが必須でした。天然素材に耐水性、撥水性を付与するという重要な機能を果たしていたのが、何と渋柿の渋み成分、柿渋でした、という解説をしました。さらに、柿渋とカキタンニンの用途について考察するために出願特許に注目してお話を進めました。
  この多様な可能性を特許の出願状況から俯瞰してみました。すでに調査・報告されていました2007年までの柿渋に関する出願特許の種類と各種の分野の割合を総合的に考察してみました。そして、2008年から2016年までの柿渋に関連した出願タイトルから抜粋したキーワードを取り上げてみますとその多様な分野と多種多様な製品に関係していることが解り、実用的な活用に幅広い可能性があることを見出しました。
  昨今は、石油に過度に依存した社会の反省、見直しからヒトや環境に優しい社会・持続的社会の形成を目指す風潮が高まっており、日本人の「和の生活」に合った柿渋文化が再認識されています。近代科学の知識や技術によって、渋柿の渋み成分はプロアントシアニジン ポリマーというポリフェノールの一種で、カテキン類の重合体であることが明らかにされ、その化学構造や特性の理解が進んだことから、将来に向けての様々な応用研究も可能となっていることを指摘しました。そして、世界に通用するような工業的な規模で新製品を製造する際に不可欠なことは、原料素材となる「柿渋もしくはカキタンニン」の高品質化と安定供給が必須であることを提唱しました。
 

最後に総合討論をして会場からいくつかの有意義なご質問やご指摘をいただきました。

  講演会場の前にある大ロビースペースでは、柿渋を利用した多種多様な製品の展示会を開催して、相互交流を実施いたしました。
 

また、より製品・作品を理解していただくために時間を設定して、各商品の説明会をロビーで実施しました。5分程度の短い時間でしたが、それぞれ多くの人だかりが周りにできて熱心に説明を聞いていただきました。
 

  講演会及び展示会の終了後、場所を地下に変えて懇親会を実施しました。参加者数を30名限定にしましたが、様々な分野の方々に参加していただき、和気藹々と、かつ 賑やかに色々な話題で話が盛り上がりました。

今回の市民講演会及び柿渋展示会の開催・実施にご協力いただきました龍谷大学の交友会館の会場や舞台関係の皆様大変お世話いただき有難うございました。また、準備や当日お世話になりました皆様大変有難うございました。心から感謝申し上げます。今後とも柿渋・カキタンニン研究会の活動にご支援・ご協力いただきますようにお願い申し上げます。
 

第5回講演会 案内<終了>

「市民講演会および柿渋展示会」の開催のお知らせ <終了>

立夏のみぎり、皆様にはご清祥のことと存じます。

柿渋・カキタンニン研究会では、「市民講演会および展示会」を平成30年7月8日(日曜)に、京都駅南のアバンティビル(響都ホール)で開催いたします。

     柿渋文化の継承と未来への語り部に!

     ~歴史・文化と科学の融合 そして革新へ~

 

当日は、柿渋に関心がある学生や一般市民の方、柿渋を製造している方、柿渋の原料柿を生産している方、柿渋を使った染色・塗料を扱っている方、柿渋のアート作品を制作している方、柿渋を含む日用化成品や化粧品・食品添加物などを製造・販売している方、新分野での用途開発を検討している方々が一堂に会して、柿渋の歴史や文化のみならず、その天然素材としての魅力や利用の難しさ、製品への加工技術、作品のデザイン、様々なアイディアなどを幅広く自由に語り、意見交換し合い、相互交流する場を提供いたします。

このような柿渋を核とした市民の地域・異分野交流および異世代間交流によって、地域産業の振興や町おこし、農業の活性化につながると期待しております。また、未来に向けての新しいライフスタイルの提案や未来社会への提言が生まれることも期待されます。

 

講演会では、専門家による5題の話題提供をお願いしております。合わせて開催します展示会と説明会では、約30の団体あるいは個人による製品や作品を出展していただく準備をしております。

  参加は無料ですので、どなたでもご関心のある方は自由にご参加下さいますようお願い申し上げます。また本会終了後には、場所を変え懇親会(交流会:有料)も企画しております。

講演会・懇親会など参加申込みについては、本研究会のホームページのメニュー「講演会などお申込」からお願い致します。20180708講演会チラシV1g.pdf

 

2018年 5月 15

柿渋・カキタンニン研究会

会長 松 尾 友 明

[市民講演会および柿渋展示会」の開催内容

◎ 日時:平成30年7月8日(日曜)13時~17時30分 
              ※1215分から展示会の前覧あり

◎ 場所:龍谷大学響都ホール校友会館9階 大ホール、ロビー、会議室

    (京都駅前八条口近くアバンティビル)

◎  内容:市民講演会と柿渋展示会(柿渋関連商品・作品・製品の紹介と説明)

◎  定員:200名

 

 [開催プログラム]

12:1513:00: 柿渋展示会の前覧 ~大ホールロビーと会議室にて~

13:0013:15: 開会の辞            米森 敬三(龍谷大学農学部 教授)

13:1513:25: 来賓挨拶     京都府 山下副知事

13:2513:30: 開催主旨と進行      松尾 友明(柿渋・カキタンニン研究会会長)

13:3014:00: 第1話 「古来、日本人の生活を支えてきた柿渋の力」

今井敬潤(大阪府立大学大学院 客員研究員)

14:0014:30: 2話 「伝統工芸・伊勢型紙から見た柿渋の魅力」

内田 勲(伊勢型紙保存会 会長)

14:3015:00: 3話 「染色工芸から見た柿渋の魅力と問題点」

小林 泰子(東京家政大学名誉教授・客員教授)

 

15:0015:30: 柿渋展示会の説明会と見学会 ~大ホールロビーと会議室にて~

15:3016:10: 第4話 「フードサイエンスから見た柿渋の魅力」

米谷 俊(近畿大学農学部 教授)

16:1016:50: 第5話 「特許や文献から見た柿渋の多様な利用とその可能性」

松尾 友明(柿渋・カキタンニン研究会 会長)

16:5017:30: 総合討論と展示会の見学と説明会 

17:2017:50  片付け&撤去

 

18:0019:45  懇親会(アバンティビル B1F

事前申込み順で30名限定、参加費用3,500

 

※  展示会および説明会は、後日個別に詳細をお知らせ致しますので、出展と参加をお願い申し上げます。

※  講演会へのお申込み(懇親会含む)は、当研究会ホームページからお願いします。